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ローカルカンファレンスを無理なく国際化する方法 - ScalaMatsuri 2016を振り返って

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2016年1月30日及び31日に、アジア最大のScalaカンファレンス「ScalaMatsuri 2016」を開催しました。

550名ほどの来場者と、16万人を超えるニコ生来場者を迎え、大盛況のうちに幕を閉じることが出来ました。

ご参加いただいた皆さん、ご協賛いただいたスポンサーの皆さん、そして準備に尽力してくださったスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。

スライド類はだいたい出揃ってきました。また動画は納品後に順次アップロードします。問い合わせの多い翻訳の提供については、現時点で確約はできないですが何らかの形で提供できないか調整しています。

ScalaMatsuri 2016 プログラム

さて、今回は振り返りをするにあたって、「ローカルカンファレンスを無理なく国際化する方法」というタイトルにしました。

なぜか。理由は2つあります。

1つは、そもそもScalaMatsuriの前身となる第一回目のScala Conference in Japan発起の理由として、日本と海外のコミュニティの交流をうたって開催されたからです。

ScalaMatsuriの存在意義はもはやこれだけではありませんが、1つの大きな柱ではあります

もう1つは、今回のScalaMatsuri 2016では、ようやく無理のない国際化の第一歩が踏み出せたからです。

海外のカンファレンスのスピンオフではないローカルな独自カンファレンスで、知名度0からのスタートだったので、当初は招待講演者4名+関係者のみ海外参加者と、今思えばとてもローカルなものでした。ここから改善して今にいたっています。

フィードバックについてはまだ集計中ですが、Twitterハッシュタグを確認する限りにおいて、マジョリティの日本人参加者と、海外からの一般参加者、どちらに寄り過ぎることもなく、楽しんでもらうことができたと感じています。

そのことが、個人的にはちょっとした節目のように感じており、なぜ国際化をしたいのか、無理なく国際化をする上で何をしたのかについて、整理するいい機会なのでしたいと思います。

なぜ国際化をしたいのか

普段会えない人たちと議論できる場にしたい

普段の仕事や勉強会で会う人たちとの議論もいいですが、普段なかなか会えない人の話を聞いたり、議論したりするのは楽しいですよね。

別に海外に限らず言える話ではありますが、国をまたいだ人と会う機会はことさらないですし、通訳を交えて話せる機会は更にありません。

それをScalaMatsuriという口実で会えて話せる環境を用意しちゃおう、ということです。

じゃあスピーカーとして来てくれれば十分じゃん、という意見もあるかもしれませんが、スピーカーとして来るだけでなく一般参加者として来てもらっても、例えばScalaTest作者のBill Vennersさんのようにアンカンファレンスで登壇してくれるケースもあります。

またもし登壇しなかったとしても、懇親会などで議論するチャンスが出てきます。

例えば@xuwei_kさんのブログでも紹介されてましたが、たまたま居合わせたので彼とBillとの議論を通訳したり、女性エンジニアを増やしたいと考えている海外スピーカーの方にきの子さんの取り組みを通訳して紹介させてもらったりしていました。

その他にも、日本で面白いことをしている人たちを、海外から来た関連分野の人に色々紹介するという草の根活動をしていました。

例えていうならば、暖流と寒流がぶつかる潮目は栄養豊富で良い漁場になることが知られていますが、日本と海外のコミュニティが交わるScalaMatsuriもまた面白い議論を巻き起こす潮目になれたら、と考えています。

この潮目の発生を初めて感じたのが、ようやく今年のScalaMatsuri 2016だったりします。

世界のOSSと、日本のOSSの距離を近づけたい

Scala By The Bay主催者のAlexyさんとも話すのですが、OSSコミュニティをどこかに作る時には最初のモーメンタムが効いてきたりします。

勉強会やハッカソン、なんでもいいんですが、開発者とユーザーの物理的な距離が近いことが最初のcontribution、PullRequestを送る敷居を下げてくれたりするという意味です。

実際、僕がND4Sを作ったり、ND4Jにcontributionしだしたのも、DeepLearning4j作者のAdamさんと物理的に会ったというのがきっかけでした。

僕は、ScalaMatsuriではそんな初期モーメンタムを提供できる場になれたらいいと思っています。

具体的には、日本発のOSSをもっと紹介していきたいと思っていますし、日本のコミュニティが興味を持ちそうな海外のOSSの関係者を連れてこれたら、と考えています。(これに関してはまだちょっと出来てるとは言いがたいですが)

無理なく国際化をするにはどうしたら良いか

耳目を集めるために規模を大きくする

ScalaMatsuri 2016は、アジアでは最大規模のScalaカンファレンスですし、世界的にも少なくとも5指、ひょっとすると3指に入る程度には大きいです。

世界最大のScala Daysが1日あたりおよそ800人程度、ヨーロッパ圏最大のScala eXchangeが1000人(但し3日間合計の可能性あり)、そしてScalaMatsuriの1日あたり550人、といった具合です。その他のScalaの国際カンファレンスは、大抵200人〜300人程度のレンジに収まっていることが多いようです。

海外から来た参加者が口を揃えて規模の大きさに驚きますし、それ以上に実利的な理由が3つあります。

1つが、CFPに応募するときの理由になるということです。多くの観客の前で話せる、というのはモチベーションになりますし、実際応募前に「どのくらいの規模?」と聞いてきた人もいます。CFPの応募が集まるほど魅力的なトークが来る確率が上がりますし、競争率が上がることはトークの質を担保する上で重要な要素です。

1つは、規模が大きいと遠方から参加しやすくなるということです。規模が大きければ、旅費が職場の経費で落としやすくなります。海外からの参加者にとってはとても重要です。実際、今回スピーカーには旅費サポートをオファーしていましたが、職場の経費で来てくれて旅費サポートは不要だと断るスピーカーもいました。

1つは、主にScalaエンジニアの採用をしたい企業が、協賛する動機になるということです。集まるエンジニアの数が多ければ、同じコストをかけたときでもリーチ出来る人数が増え、また採用のチャンスにつながります。協賛企業が集まるということは、その協賛金をつかってより広い会場を借りたり、翻訳などの参加者向けのサービスを向上させたり、海外公演者の旅費サポートの原資にすることができます。

どうやって規模を大きくするかについては、鶏と卵の関係でもあるのですが、質の高いトークを集める、チケット代を抑える、宣伝をする、など色々あります。

海外からでも応募したくなるCFP

質の高いトークを集める、と書きましたが、実際にはとても難しいことです。

なぜなら特に海外から日本に来るには、お金もそうですが、時間も体力も大変に使います。そのハードルを乗り越えてもらう魅力を、カンファレンス内外で構築しなければなりません。これにはとても苦労しました。

まず、時期を敢えて真冬にしました。これはScala Days SF 2015に僕が参加したときに、色々な人達にScalaMatsuriの宣伝をしていたところ、日本に興味を持ってくれる人が軒並みスキー・スノボに興味を示していたことが原因です。

なぜかといえば、ご存知の通りScalaはスイス工科大学のEPFLで作られた言語なので、その周辺国出身者が多く、Scala関係者にスキーヤー・スノーボーダーが多くなっているということ。そして、どうも日本は世界的なパウダー・スノーのメッカとして知られているからでした。

もっといえば、Scala Daysの1日目までの段階では正直なところ、秋開催のつもりで考えていました。ただあまりにも冬を希望する声が多く、また他の日本の言語カンファレンスがことごとく秋開催で日付がかぶるリスクなどがあったこと、またCFPでの応募集めという大きな課題への解決策になってくれる可能性を鑑みて、その日のうちに同じく参加していたYokotaさんや、夜に日本のメンバーとチャットで相談して冬開催に決めました。2日目から改めて冬開催ということで宣伝したところ、そのときScalaMatsuriの話をしたJonasさん、Konradさん、Billさん、Tomerさん、Alexyさんなどが今回実際にScalaMatsuriに来てくれました。特にTypesafeチームはScalaMatsuriの前に北海道のニセコでスキーを楽しんでいたようです。(僕も行きたかった…)

次に今回から思い切ってCFPを投票制にし、投票上位者には最大$2,000の旅費サポートを提供することにしました。これによりありがちな政治色を排除することと、金銭的なハードルを超えられるようにしました。結果的に、従来招待講演者として招聘していたような人たちが続々と応募してくれて、また実際に多くの人が参加してくれたので、十二分に元は取れています。

また投票制を採用するにあたり、翻訳チームがCFPの応募を原文の雰囲気に忠実な形で日<->英双方向の翻訳をしてくれたお陰で、日本の参加者も海外の参加者も、さほど意識することなく投票に臨んでもらえる体制ができました。

今回からプロによる同時音声通訳を2会場分提供することで、英語話者でも複数のトラックから聞きたいものを選んでもらえるようにしました。これにより日本人参加者もより英語講演を楽しみやすくなりますし、海外からの参加者も日本語講演を無理なく楽しめるような仕組みになったと思います。

その次に、イギリスのScala Worldにも僕が参加し、CFPの宣伝と口説きを一人ひとりに行いました。このときに話した人たちで何人もCFPに応募してくれましたし、実際来れない人でも他に興味を持ちそうな人を紹介してくれたりしました。

オンラインでも、興味を持ってくれそうな海外のOSSの人たちに、メールやメッセージを飛ばしました。実際に応募してくれて来てくれた人や、自分は参加できないけどMeetupで宣伝してくれたりなど、効果がありました。

最後に、海外から来た参加者を含めた飲みチームを組成して、開催前日や2日目の夜に有志で飲みに行ったりしました。これもカンファレンス外で楽しんでもらう1つの方法だと思っています。

こういった草の根的な努力が実を結び、CFPの競争率としては過去最高の5倍以上、そして海外からの一般参加者を集められ始めています。

セッション募集終了と、投票開始のお知らせ - ScalaMatsuri運営ブログ

インフラとしての翻訳

日本人が海外参加者の講演を聞く場合、またその逆において、最大の壁は言語だと思います。

昨年まではボランティアベースのテキスト翻訳をA会場のみ提供していましたが、やはり通訳者としては素人のスタッフの提供には限界が有り、今年からA,B会場ではプロフェッショナルによる同時音声通訳を提供しました。

今回のケイワイトレードさんはかなりハイクオリティな翻訳を提供してくれて、好評でした。次回は全会場翻訳を提供できたらと考えています。

その一方で、懇親会の日・英通訳のリソースについてはまだまだ改善の余地があると思います。

私は気づく限りにおいて通訳を買ってでていましたが、やはりリソースとしては全然不足しており、良い方法がないか勘案中です。もしご意見などあればぜひシェアしてください。

全ての参加者が安心して参加できる環境

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ScalaMatsuri は、様々な地域やコミュニティから集う技術者に対して開かれたカンファレンスを目指しています。
特に、性別や人種など、多様な背景を持つ人々が互いに敬意を払って楽しい時間を過ごせるよう、当カンファレンスでは、発表者や参加者、スポンサーの皆様に以下の行動規範を守っていただくようにお願いしています。

今回から、多様な背景をもつ参加者が安心して参加できる環境を目指した行動規範の実運用を開始しました。

行動規範については、以前私のものや運営ブログでも紹介しましたので、そちらを参照してください。

ScalaMatsuri 行動規範を掲げた経緯 - OE_uia Tech Blog

「グローバルな技術カンファレンス」と「日本のコミュニティの交流」の両立 - ScalaMatsuri運営ブログ

海外のカンファレンスでは当たり前になってきているとはいえ、日本ではまだまだ行動規範について認知度は高いとは言えない状態でした。

そこで、今回は行動規範の紹介と、それに準じたマナーを啓蒙するための動画を友人のプロのイラストレーターのひなたかほり(@hinatique)さんに依頼して制作しました。動画自体は楽しんでいただけたようでホッとしています。

ただその一方で、3分半程度と短い動画の中に色々詰め込まなければいけないため、かなりの部分を簡略化した、わかりやすさを重視した作りになっているのも事実です。

そのため、幾つか表現上気になる部分については指摘をいただいたりしております。元々は必要に応じて改善を入れることを前提に制作した動画なので、次回以降に向けて反映・改善していきたいと思っています。

また、お気づきかもしれませんが、エンドロール以外はScalaMatsuriという単語が出てきません。

これは、ScalaMatsuriと同じような技術カンファレンスでも使いやすいようにと敢えて排除しています。ScalaMatsuriの行動規範に同意していただいている限りにおいて、ご自由に使ってください。

車輪の再発明はできるだけやめて、Scalaコミュニティに限らず皆が技術的な議論に集中できるようにしたいという思いを込めています。

もしご使用されたら、ぜひ #ScalaMatsuri のハッシュタグをつけてツイートで報告してくださると、とても嬉しいです。

最後に

マジョリティの日本人参加者の体験を損なわずに、いかに海外参加者にも楽しんでもらえる仕組みを作るかについて、ご紹介してきました。もちろん、これ以外の仕事も大量にこなしては居ましたが、個人的には今年いちばんチャレンジした部分で、かつ成果に結びついたところなので、思い入れもありまして、知見として共有させてもらいました。

また、この3年間で色々な先輩カンファレンス、特に PyCon JPさんなど、日本で実績のあるカンファレンスの仕組みは色々と真似させていただき、また寺田さんから直接アドバイスを頂戴したりしまして、いつも勉強させて頂いています。本当にありがとうございます。

ようやく3年目にしてScalaMatsuriとしての独自色を出せるようになってきましたので、そこで蓄えた知見を少しでもコミュニティ内外に還元できたらと考えています。その一環としての、このブログ記事という側面もあったりします。

これからも ScalaMatsuriをどうぞよろしくお願いします。

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